貪欲さが、減っていた。
出版社に、できあがった本を取りに行った日のことを、おぼえている。
まだ、誰の手にも渡っていない本を、まとめて受け取った。
持ってみると、おもったより重かった。
やっぱり、感慨深いものがあった。
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でも、うれしさというのは、長続きしないものだ。
しばらくすると、僕は、次の本のことを考えていた。
次を出したい。
というより、次を出さないと。
そっちのほうが、強かった気がする。
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2冊目が出た。
そのときにはもう、3冊目のことを考えていた。
キリがないな、とは、感じていた。
はっきりとではない。じわじわと。
感じながら、それでも、次を数えていた。
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なぜか。
いま振り返ると、拍子抜けするくらい、単純な話だ。
降りる、という選択肢を、思いついていなかった。
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僕が影響を受けてきた人たちは、みんな、著書を増やしていた。
1冊、また1冊と、積み上がっていく。
焦りと、憧れが、同時にあった。
少しでも追いつきたい。
追いつかなければ。
増やし方なら、いくらでも、目の前にあった。
でも、降り方を見せてくれる人は、ひとりもいなかった。
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そのあと、体を壊して、止まった。
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ここまでなら、よくある話だとおもう。
倒れて、目が覚めて、そこから変わった。
でも、そうはならなかった。
回復してから、僕は、3冊目を書いている。
つまり、まだ、数えていたのだ。
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結局、その本は、出なかった。
書きすすめるうちに、出版社との方向性が、合わなくなった。
出す以上は、合わせるところは合わせないといけない。
それはそうだ。
ただ、それをやるとなると、じぶんのモチベーションはどうなるだろう、という思いがあった。
白紙に戻してほしい、と、僕のほうから言った。
ためらいは、あまりなかった。
いろいろな思いはあったけれど、いちばんは、ホっとした、だとおもう。
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粘れば、出せたかもしれない。
そう考えることは、ある。
でも、粘らなかった。
以前の僕なら、たぶん、粘っていた。
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焦りも、憧れも、よくも悪くも、減っていたのだ。
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よくも、悪くも、
貪欲さとか、必死さみたいなものは、足りなくなったのかもしれない。
そうおもうことが、ある。
いちど倒れてみると、弱いものだった。
またあそこには戻りたくない、という気持ちのほうが先に立つ。
無理をすることが、こわくなる。
それは、僕固有の弱さかもしれない。
そう認識したうえで、書いている。
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いまも、増やしつづけている人たちがいる。
その姿を、僕は、前ほど、うらやましいとおもわない。
それが、じぶんのペースを見つけたということなのか。
それとも、ただ、こわがっているだけなのか。
いまも、よく、わからないままだ。


