コーヒーは、入口にすぎない。
中目黒の、目黒川沿い。
スターバックスのロースタリー東京、その3階のテラス席で、これを書いている。
風がいい。
光が、ちょうどいい。
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ここには、年に1回くらいのペースで来る。
スタバのなかでも、特別な店だ。
エントランスのドアを開けると、スタッフの声が飛んでくる。
「ちょうどいま、焙煎しています!」
香ばしい豆の香りが、空気に混ざっている。
吹き抜けには、巨大な銅の焙煎機。
限定グッズが、ところ狭しと並んでいる。
建物は、4階まで一棟まるまる、スタバだ。
フロアごとに、テーマがちがう。
どこに行こうか、毎回、迷う。
フードもドリンクも、ここでしか味わえないものがある。
内装も、どこを切り取っても絵になる。
ひとことで言えば、テーマパーク的な魅力がある。
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でも、結局のところ、ここは、コーヒーを売っている店だ。
コーヒーを売っている店なんて、いくらでもある。
家のそばにも、駅前にも、コンビニにも。
しかも、ここの値段は、ふつうのスタバの2〜3倍する。
家から、けして近いわけでもない。
それでも、僕は、また来たいとおもう。
何度でも、来たいとおもう。
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たぶん、コーヒーだけを売っているわけじゃないからだ。
コーヒーに、体験が、込みでついてくる。
焙煎の声、豆の香り、銅のキャスク、フロアごとのちがい、限定の品。
それらが全部、コーヒーの一部になっている。
だから、価格が2倍でも、距離が遠くても、また来る。
僕がお金を払っているのは、たぶん、コーヒーだけじゃない。
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これは、スタバだけの話じゃない。
サービス業の僕にも、たぶん、おなじことが言えるとおもった。
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ここまで書いてから、じぶんの仕事のことを考えた。
あとづけかもしれない。
でも、たぶん、同じことをしている。
僕は、Kindle本を書いたあとに、読者向けのメール講座をはじめた。
本を、読んでおわりにしてほしくなかったからだ。
メール講座は、ひとつの答えを渡すためのものじゃない。
読者が、じぶんの問いを深めていくための、きっかけのつもりだ。
問いを持ち続ける時間も、たぶん、体験の一部なのだとおもう。
問いを持ったまま、しばらく日々を過ごす。
仕事のなかで、ふと、思い出す。
読みかえす。
書き足す。
そのあいだに、本に書いてあったことが、すこしずつ、じぶんのなかに浸み込んでいく。
僕が伝えたかったことが、ようやく、伝わりはじめる。
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本は、たぶん、入口だ。
入口だけだと、開いて、閉じて、それで終わる。
だから、入った先にも、なにかを置いておきたい。
ロースタリーで、コーヒーの先に、空間と香りが用意されているように。
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商品だけではなく、その先に残る時間まで設計する。
これからの商品づくりで、僕が忘れたくないのは、たぶん、そこだ。
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そんなことを考えながら、目の前の冷たいコーヒーを、ひとくち、すすっている。



